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血と骨|屈折した家族愛目線で観る〜あらすじ感想【日本映画】

血と骨

題名:「血と骨
公開日:2004年11月6日(日本)
監督:崔洋一
脚本: 鄭義信崔洋一
原作:梁石日
キャスト:ビートたけし田畑智子新井浩文オダギリジョー鈴木京香寺島進國村隼濱田マリ柏原収史中村優子

【あらすじ】
1923年。日本で一旗揚げようと、17歳で済州島から大阪へ渡って来た金俊平(ビートたけし)。蒲鉾職人となった彼は、24歳の時、幼い娘を抱えながら飲み屋を経営する李英姫(鈴木京香)と強引に結婚し、花子(田畑智子)と正雄(新井浩文)のふたりの子供をもうける。しかし、酒を飲んでは荒れ狂う彼に、家族の心が安らぐ日はなかった。戦争中は行方知れずだった俊平が、ふいに戻って来たのは45年の冬のことだった。弟分の信義らを従えて蒲鉾工場を始めた彼は、持ち前の強靱な肉体と強欲さで成功を収め巨額の富を得る。ところが、そんな彼の前にかつて済州島で寝盗った人妻に生ませた息子・武(オダギリジョー)が現れた。気ままに振る舞う武は、やがて俊平に金を貰って出て行こうとするも、家族には鐚一文遣う気のない俊平と大乱闘となってしまう。一年後、自宅のすぐ目の前に妾宅を構えた俊平は、そこへ清子と言う若い女を囲い、高利貸しを始めた。しかし、清子が脳腫瘍で倒れると、やり場のない憤怒は再び家族へと向けられていく。しかも、介護を名目に新しい愛人・定子(濱田マリ)を迎え入れたかと思うと、長年の苦労が祟って入院した英姫に治療費を払ってやらず、正雄とは衝突を繰り返し、夫・希範の暴力に耐えかね自殺した花子の葬式で暴れる身勝手ぶり。だが、その俊平も寄る年波には勝てなかった。体の自由が思うように利かなくなった彼は、定子に捨てられ、英姫にも先立たれる。ところが、それでも金への執着だけは衰えず、彼はたったひとり残った肉親である正雄に借金の取り立ての仕事を手伝うように言うが、正雄にその気はなかった。その後、還暦にして定子との間に出来た息子・龍一と北朝鮮へ渡った俊平は、84年冬、78年の生涯を静かに閉じた。
キネマ旬報データベースより

【個人的まとめ考察 ※ネタバレ
時は大正12年。韓国の最南端にある済州島からやってくる若かりし頃の金俊平。(伊藤淳史 演)この頃の済州島は1910年の韓国併合で日本統治下になり1945年まで朝鮮総督府によって統治されていました。俊平の乗っていた船の名前なのですが、劇中は「君のよ丸」。このことから1922年から1945年にかけて、済州島大阪市を結んでいた貨客船の「君が代丸」に乗ってきた設定となります。
日本に住む在日朝鮮人のみなさんの多くが済州島出身&大阪に多くお住まいというのは、この船の往来が由来というのがこの作品で実感できます。済州という島は独特の成り立ちをしてきたこともあり、半島から見ると差別対象エリアともされてきたのと、地質が農業に適さないのもあり、日本で一旗あげる人々が多かったようです。貧困と差別を逃れ、先に日本にいる知人や家族を頼ってくるイメージ。こうして独自のコミュニティを築いたわけです。
済州島 - Wikipedia 韓国の地域対立 - Wikipedia

肝心の映画本編。
まずは、俊平(たけし)が力づくで犯し強引に嫁にする英姫(鈴木京香)の背景。彼女は16歳の時に故郷で結婚をしたのですが旦那はなんと10歳!我慢ならなく島を娘とともに飛び出します。その後岸和田の紡績工場に勤め、そこで不倫妊娠し追い出されます。(〜朝鮮の早婚習慣や不貞行為の温度については機会があれば掘り下げます)というわけで結構訳ありな女なのです。しかし俊平はこの英姫を無理やり自分の妻にします。口には出しませんが相当英姫のことが気に入っていたかと思われます。
ということで、金俊平一家は、妻の英姫と済州島で産まれた連れ子の長女春美、花子(俊平の実子ではない)、長男の正雄となります。俊平と結婚する前に英姫は、俊平の弟分でもある高信義(松重豊)と恋仲にあった可能性もあります。ちなみに高は英姫に最後まで心を寄せていました。

1939年から始まる第二次世界大戦。長女の春美は出征前の男性と結婚します。だんだんとここに暮らす人たち(以下 部落 表記)は、朝鮮人でありながら日本のために戦うという不条理な状況に陥り、アイデンティティの迷子状態になっていきます。共産思想に傾倒していく人も出てきます。
ある日俊平は家を出て行方知れずになります。家族も部落のみんなも忘れていたころに突然帰宅し、いきなり蒲鉾工場(朝日産業)をはじめ部落の近しい人々を雇い入れますが、そこは気性の荒い俊平。従業員にも自分にも言い聞かすように「働け!」「働け!」と取り憑かれたように辛い労働を強いていきます。
ある大雨の日、ヤクザ者のオダギリジョー(武)が家にやってきます。思いがけない家族出現です。彼は俊平が済州島で人妻を寝取って産まれた子ども。不貞に厳しい朝鮮では武は部落や家庭で非常に白い目で見られていたかと思われます。父の羽振りの良さを聞きつけてきたのもあるでしょうが、人生において行き場がなく本能的に「血」を頼ってきたのも当然あるでしょう。自分に似ず働かない武ではありますが、俊平は黙って家に置くのです。

ここで「家族(血)」を大切にする朝鮮の家族制度と、俊平の家族愛が読み取れます。

いきなり出現した武。それまで長男であると思っていた正雄に兄が現れた。正雄は武を兄貴と慕い、武も不器用ながらも正雄を真の弟として可愛がります。ほどなく武の嫁もやってきますが、しかめっつらをしつつも、俊平はまた無言で置いてやります。武は父の勝手において産まれた自分の出生の話をダシに金をせびりますが、俊平はお金を貸しません。
また雨の日。武夫妻は家を出ることとなりました。最後に武は父俊平に金の無心をします(武は貸してくれないとわかって言っていると思われ)。武にも俊平にとっても、金は愛の屈折した形であり、武は金を借りることで愛を手にし、俊平は金を手放すことは愛が去っていくと無意識下で感じていたのかもしれません。ここで俊平と武は乱闘になるのですが、父俊平としては金家の長男として意にそぐわないもどかしさもあったかと思われます。英姫は武にお金を持たせ送り出します。武は弟の正雄に別れを告げ、その10日後ヤクザに撃たれ命を落とします。話の流れ的に、武が俊平の家に転がり込んだ当初から命の期限に気づいていたかと思われます。父とは正反対にいい加減な人生を送っていた武ではありますが、ねじ曲がった方向で家族(血)を想う気持ちは俊平と同様です。その反面正雄は血縁や家族等に醒めた考えを持つようになっていきます。

ある日、部落の集いがあります。ちょっとした広場で料理や酒で楽しむのですが、そこで生きている豚が一頭吊し上げになります。豚は済州の伝統でもあるのでご馳走扱いでしょう。その様子はグロテスクに映りますが、みんな生き生きとしています。ここで俊平なのですが、それを代表して整然とさばいていくのです。協調性がなく厄介者ではあるのですがしっかりと帰属しており、部落の人々たちも彼に尊敬の念があることを伺わせます。とはいいつつ、その頼もしさは残忍さであるのは言うまでもありません。
ここで俊平は豚の臓物を一斗缶に入れ、ウジをわかせたものを滋養強壮食として愛用する様子が映ります。自分が頼れるものは己の身体しかない。それを維持するためにこの迷信がかった民間療法(トンスル的な感じ)に傾倒するところは俊平の脆さも感じずにもいられません。信じ込むことで体を保っているような感じです。

その後、俊平は英姫へのあてつけのよう本宅の近くに家を借り、清子という未亡人の日本人の女を囲います。そしてこれみよがしに自転車の後ろにのせ街を走ります。この清子との関係なのですが、清子は金ではなく、純粋に俊平の肉体の強靭さ(精力)を愛しているのです。肉体は彼の一番の自慢なのですが、家族や同胞から嫌味嫌われているものでもあります。俊平が清子に入れあげるの納得。ただ清子には子どもができない。俊平はウジの湧いた臓物を無理やり清子の口に入れます。それほど彼女に精力をつけてもらい自分の子を産んでほしかったのでしょう。この後清子は脳腫瘍の後遺症で半身不随になりますが面倒を見続けます。

家族の関係も変わっていきます。正雄はますますフラフラとした男に、花子は共産思想に感化された男性に思いをつのらせます。英姫は俊平が小金貸しをはじめたことに対抗するように食堂をはじめます。俊平と英姫の愛はますます屈折。
特に俊平は正雄の不甲斐なさへの苛立ちを覚えます。それは花子への苛立ちと化し、2人の決定的な血の通わなさが露呈。花子は自殺未遂。俊平はあれだけ執着していた家族の象徴でもあった蒲鉾工場を木っ端微塵にし閉業。金貸し業一本で更に病的に金へ執着し、同胞に過激な取り立てを行い自殺に追い込みます。

妾の世話をさせるために定子という女(差別階級の出かと)を住み込みで雇います。俊平と愛のない肉体関係が発生するのですが、清子は不自由な身体で嫉妬の感情を現します。定子は俊平の子どもを次から次へと産んでいきますが愛は感じられません。

相変わらず正雄は長男としての自覚なし。朝鮮流のしきたりのひとつもわかりません。俊平が清子を手にかける(コロス)様子を偶然見てしまった正雄はますます俊平を憎悪。(〜清子をコロス件については、生き地獄から救ってやりたい俊平の一種の愛情であるかと)

本妻の英姫は治る見込みのない病に侵されます。憎む俊平に頭を下げ治療費を貸してくれるように頼みますが「治る見込みがないのに貸すのは無駄」と冷酷な物言い。ここで大喧嘩になり完全に仲違い。正雄は家を出ます。長女の花子は惰性で結婚した旦那の暴力に悩まされます。正雄を頼りますが、冷たくあしらわれ失意で首吊自殺。

花子の葬式。

気狂ったように「ワシの娘、どこや!どこや!」と大声で乗り込んでくる俊平。死んだ娘の生きている姿を探し。。。血の繋がらない花子を愛していた様子が伝わります。
ここで俊平はアタって右足麻痺。これをいいことに定子は俊平の金を持ち逃げ。俊平待望の男の子を含め子どもたちを連れ家を去ります。
独りになった俊平は取り立ての亡者に。英姫の葬式にも立ち会えず寂しい晩年を過ごします。

すっかり老いた俊平は信義とともに長男正雄の元を訪ね、借金の肩代わりをしたので自分の金貸し業の跡を継ぎ、その分を働いて自分に返済するよう諭しますが聞く耳持たず。見かねた信義、「金俊平の息子だろ!」と朝鮮ならではの家族制度の価値観を提起しますが響くはずもありません。

〜〜ドイツ製製版記5台、自家用車5台、2トントラック5台、日本円7,000万円、セイコーの腕時計100個、衣類・靴財産、日本円で7000万円
俊平は今まで執着してきた「金」と「財」をあっさりと寄付し手放し「地上の楽園」北朝鮮へ。定子との間に産まれた息子の龍一を拐い連れ立って。。。

【感想】
録画してたNHK北朝鮮への“帰国事業”知られざる外交戦」を見る前に思い立ち「パッチギ」と合わせて2作をアマプラで視聴。本作「血と骨」は原作小説を00年代初期に読了後DVDレンタル〜3回目の視聴鑑賞となります。
・・・私、年をとったのでしょうか?
これを最初に観た時との印象とは全く違い、ビートたけし演じる俊平や周りの人々の屈折した愛を強く感じざるを得ました。その中でも一番気になったのが、この金俊平という男がどういう生い立ちでどんな思いで日本に来たのか?そしてどうしてここまで怪物のような男になったのか?
この作品、原作小説の著者 梁石日氏のお父さんがモデルなのですが、幼少期どんな境遇で育ったのか気になります。(血と骨 - Wikipedia
NHKの録画。この帰国事業にこんなにも各資本主義国と共産主義国の思惑があったというのを恥ずかしながら全く知らず勉強になりました(〜この番組の感想は別ページ展開します)それはもう過去のことなんで仕方ありませんが、現在休戦中の両国。私の生きている間にこの問題は解決されるのでしょうか?仮に朝鮮統一がなされたとしても、民族間差別はなくなるどころか史上最大に悪化するのは目に見えているような気がします。

【評価】
★★★☆☆
今では信じられないキャスティング。
暴力を振るう人を肯定するつもりは毛頭ありませんが、なぜ振るっているのか?という観点から観てみました。・・・そこにあるのは人と国への愛憎。
濃い朝鮮の歴史はあまりありませ〜ん。

血と骨

血と骨

  • 発売日: 2017/04/01
  • メディア: Prime Video